場づくりマーケティング・コンソーシアム

タグ: 文化

滋賀、伝統的建造物群保存地区である近江八幡のまちにひっそりと、それでいて鋭く存在を象徴するミュージアムがある。今次々と日本国内にも誕生しはじめるアール・ブリュットの美術館、そのモデルにもなっている。障がいのある人の表現活動を展示、さらに「障がい者と健常者」「福祉とアート」「アートと地域社会」など、様々なボーダー(境界)を超えていくことに取り組むミュージアム、“ボーダレス・アートミュージアムNO-MA”だ。
P1030724

P1030721
隣家と同じ様式の板塀からなかを見ると、入口の脇にある牛乳瓶入れ、小石で敷き詰められた庭、手入れされた植木、開かれたガラス扉の奥に灯る白熱灯。懐かしい気持ちと、自分を待っていてくれているかのような温かい光景が目の前に広がる。展示された作品の数々は、そんな町屋の生活感を残した部屋に丁寧に飾られている。

P1030711
P1030702
ボーダレス・アート、このコンセプトは展示のコンセプトそのものにもなっている。あるときは、畳のひとまに現代アーティストと障がい者のアート作品が説明書きも最小限に並べてある。アール・ブリュットとそうでないアートの違いはなんなのかを直接的に訴えかけるのではない。展示を通じて、「人の表現にボーダーはあるのか」「表現活動の根底にあるものに、違いはあるのだろうか」、それを訪れるものに感じさせるのだ。

滋賀県では、戦後まもなく「日本の障がい者福祉の父」とも言われる糸賀一雄をはじめとした幾人かが、障害のある児童等の教育・医療施設「近江学園」を創設。1946年、本当に戦後まもなくである。そこでは信楽の粘土を利用した陶芸など造形活動が当初から取り入れられ、1954年からは展覧会も始まった。2010年にパリで開催され12万人を集めた「アール・ブリュット・ジャポネ」展では、出展作家のおよそ3分の1が滋賀出身の作家だったとか。日本にアール・ブリュットという言葉が浸透する何年も何十年も前から、この地には障がい者の造形活動に真摯に取り組み、それが脈々と受け継がれ、今日につながっているのだ。

美術館として町屋を選んだのは、敷居の高い空間ではなく、人が暮らしていた空間でこそ、アール・ブリュットの作品が生活に溶け込むと考えらたからだったという。NO-MAは先導的で挑戦的なミュージアムだ。しかし、その施設は奇をてらうことなく、昔ながらの町屋に溶け込み、広告や刊行物も決して主張しすぎない。むしろ伝統的建造物群保存地区という、実は失われかけている日常、生活の場とも言える街並みと、そういった挑戦が出来る土壌が両立していることでこの地の魅力をさらに深いものにしている。ボーダレス・アートは障がい者か健常者かというボーダーだけでなく、生活という場の限りない可能性をそっと教えてくれるミュージアムだ。

P1030699

田中

東京、武蔵野の原風景が残る玉川上水沿いに位置する広大な小金井公園に、江戸東京たてもの園はあります。移築された江戸・東京の歴史的な建造物たちが、大正昭和のモダンな家や武蔵野の民家が並ぶ西ゾーン、由緒ある歴史的建造物が並ぶセンターゾーン、下町の町並みが再現された東ゾーンの3つのエリアに分かれていてます。一歩足を踏み入れば、タイムスリップしたかのような街並みの世界を体験できるのです。
iphone 021

iphone 015

江戸時代の藁葺屋根の民家に行くと、半被を着たボランティアさんが、釜に火を入れて煙を起こしています。防虫等のための燻煙というものなのですが、それがたてものと一体化し、まさに当時の面影が伝わってくるよう。銭湯から出てきたガイドさんに声をかけられて入ってみれば、学生コーラスが合唱。観客が笑う賑やかな様子は、まるで昔の銭湯を思わせます。
iphone 037

広場では、コマ、輪回し、竹馬、などなど。大人は懐かしそうに、子どもは新鮮な表情で昔の遊びに挑戦。ここでも自由自在に道具を操り、遊び方をおしえてくれるベテランボランティアさんがいました。商家や蔵に囲まれた下町風情漂うエリアで、賑わう人々の様子は、まさに木村伊兵衛の写真の世界でした。
iphone 026


iphone 033
ここでは、「たてもの」一軒に対して必ず1~2名のボランティアさんがおり、たてものの説明やガイドツアーをしてくれます。さらにそれぞれの特技や知識を使って、「たてもの」の歴史や由来に関係する語りや実演などもしているのです。そのボランティアさん、なんと200名近くいるんだとか。園内では、伝統工芸の実演や、七夕祭りや梅漬け・お月見飾り・節分といった伝統的な日本の年中行事を再現したイベントが頻繁に開催されています。訪れた人は知らずのうちに、「たてもの」と「ひと」の相乗効果に、そこにあった「暮らし」に触れることができるのかもしれません。
近年小金井では江戸東京野菜が再び盛んに作られているのですが、このたてもの園で、江戸東京野菜を使ったイベントや企画をおこしていたことは、大きなきっかけとなっていたようです。忘れられた、失われた「暮らし」に触れ、新たな「暮らし」をつくるつながり、活動が生まれる。たてもの園はそういうつながりを生む場になっています。

田中摂

高知市内に流れる川沿いに突如現れる、古い藁倉庫群。高知の歴史を感じさせる一角です。そしてこの一角に新しく藁工ミュージアムが昨年誕生しました。近くまで行ってみるととても明るくリノベーションが施されていて、ひとつひとつの倉庫に新しい活動が生まれています。ここはミュージアムだけではなく、バル、ショップ、ギャラリー、美容院、アーティストが集まる場、などなど複合アートゾーンになっているのです。
P1010988

3月は、「トマトアートフェスタ」特集。トマトをテーマにしたはがき作品を全国公募し、集まった作品を展示しています。面白いのは、展示だけではありません。ミュージアムの隣にある土佐バルと連携し、そしてその隣の蔵を使って、トマトを味わい愉しむワークショップを開催していました。講師は「きんこん土佐日記」で大人気の高知のマンガ家村岡マサヒロさん。

参加者たちはまずは土佐バルに行き、高知のトマト料理を味わいます。
トマトワークショップ1
美味しい食事ではじめて会う参加者同士もうちとけあい、(私も席で一緒になった地元のおふたりといきなり仲良くなってしまいました)、トマトが実は高知の名産であることを知ります。そして、それぞれの印象を一枚の絵に表現していきます。
トマトワークショップ2
アートイベントが好き、村岡さんのファン、近所だから、おいしいものが食べられるから、いろんな理由でふらっと来た参加者は、トマトを五感で愉しみ、気づけば「高知の名産トマト」について詳しくなっていっていきます。

藁工ミュージアムのしかけはそういうところに面白さがあります。学芸員の方に話を聞くと、いかにふらっと入ってきてもらってアートを体験してもらえるか、そのきっかけづくりにとても工夫をされていました。この藁工ミュージアムは、アールブリュット(専門の美術教育を受けていない人が自発的に生みだした、既存の芸術技法や方法論にとらわれない芸術)を主軸とした美術館としてオープンしています。聞けば館長という存在もいない、そしてとても自然に障害のある方が受付や案内で働いてらっしゃり、まるで仲の良いご近所づきあいかのように、各蔵同士が一緒にイベントを起こしたり、活動を外に拡げています。

高知の歴史を象徴するこの藁倉庫から、アートが湧きでて人を呼び込み、そこで生まれる様々な活動がまちにこぼれていました。高知の歴史を感じながら、新たに生まれていく高知の文化を感じさせる場所です。
藁工ミュージアム http://warakoh.com/museum

田中摂

このページのトップヘ