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タグ: アート

愛媛県今治市。海岸沿いに続く今治の工業地帯を抜けてのどかな田園風景に入り、そのまま少し山あいに入っていくと、「タオル美術館」と書かれた歩道橋が見えてきます。その歩道橋の脇に立つ、西洋風の大きな建物がタオル美術館です。

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この美術館は地元のタオルメーカー・一広株式会社の一事業として誕生しました。一広株式会社を含むグループの名前はその名も「タオル美術館グループ」。美術館の運営はそのグループの中のタオル美術館ICHIHIROが担っています。

私たちの日常品として欠かすことのできないタオル。そのタオルをテーマにした美術館というと、皆さんはいったいどんな空間を想像するでしょうか。タオルのアートってどんな感じなんだろう。期待を胸にギャラリー入口へ向かいました。入場チケットの代わりになっている、オリジナルのハンドタオルを貰って中へ進みます。

まず最初に迎えられるのは、タオルの製造工程が見学できるエリア。縦に長い部屋に沿って機械がずらりと並び、実際に稼動をしている様子を見学できます。

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そのエリアを抜けると、タオルアートのエリアへ。

そこには本当に絵画を観るかのような感覚で、アーティストの原画をそのまま表現し、額縁に入ったタオルアートの数々が並んでいました。タオルに絵が織り込まれていたり、タオルを組み合わせて絵を表現したり、その芸術性の高さもさることながら、タオルの絵本やのぞき穴からアートをのぞく見せ方など、見学者を楽しませる工夫もたくさんみられます。いつも美術館でみるアート作品とはちょっと違う驚きを与えつつも、タオルの質感が織りなす、どこか親しみやすく、ほっとする雰囲気がそこには溢れていました。

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製造メーカーが、その産業を展示する博物館・展示場は多いですが、「産業を美術品に仕立てて展示する美術館」というのは非常にめずらしいのではないのでしょうか。タオルの可能性と、アートの力を感じることができました。

さて、タオル美術館はアートを楽しむだけの空間ではありません。ギャラリーを出ると、そこにはたくさんのショップがあり、様々なタオルグッズを買うことができます。さすがタオルの総合メーカーと思わせる品揃えです。その場で刺繍のサービスもあり、百貨店に行くよりも、ここに来た方が目当てのタオルを見つけられるのではないかと思いました。
そしてもう一つの目玉は2階の物産コーナー。今治の物産品が所狭しと並んでいます。地元の人も、「ここに来れば今治のお土産はほとんど手に入る」と言うほどの品揃え。

その他にも広い庭園とレストランを利用してできるウェディングサービスや自社経営のカフェなど、充実したサービスで様々な利用者を迎え入れていました。

広報の十倉さんにお話を伺うことができました。いわく、タオル美術館のこだわりは「ここにしかないオンリーワン」。タオルアートの独自性はもちろん、物販も、ここに来ないと買えないものを用意すること。タオルグッズだけでなく、地元のお菓子メーカーと共同でオリジナル商品を開発する、カフェはテナントでなく自社経営にするなど、タオル事業以外でも徹底した「オンリーワン」にこだわっていました。そういったこだわりもあり、経営の約3分の2は物販等ショップの売り上げで賄えているという、美術館としてだけでなく商業施設としても参考にしたい経営力の高さがうかがわれました。

タオル産業をアートという新しい面から支え、今治の観光・商業活性化にも貢献する「タオル美術館」は他の地場産業や観光事業にも多くのヒントを与えてくれる、そんな美術館だと思います。

黒木 奈々恵

文化による復興を貫いて、時代を記録し続けるまち

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ドイツ、フランクフルトから特急に乗って二時間弱。ドイツの地方都市人口20万のまちカッセルは、2012年夏、現代アートの芸術祭ドクメンタに湧いていた。ドクメンタとは5年に一度会期100日間、カッセルの地で開催される国際的な現代アートの祭典である。
世界中からアート界の先端として一目置かれ、批判批評共に厳しく受けるドクメンタであるが、カッセルのまちを訪れてみて感じたこと。それは、まちの文化的成熟、つまるところの、ドクメンタのある「日常」である。この名の知れないまちが、圧倒的なスケールと重厚感で展開される現代アートの作品群に符合し、世界中の来訪者を迎え入れる度量は一体何に起因しているのか。アートの質ではなく、まちとドクメンタの関係性といった視点で、検証してみる。
はじめて訪れたカッセルのドクメンタで、とても会場とまちの全ては周りきれなかったが、肌で感じたその様相から以下の3点にまとめる。

1つ目に、まちの歴史を起源としていること。第二次世界大戦の砲撃によるまちの崩壊からの復興、ナチスの文化芸術迫害からのアートの復権という大戦の負の歴史を昇華するためにドクメンタははじまった。その理念は、世界の政治的混乱、格差、貧困、戦争、経済危機など社会矛盾に対して強烈なメッセージを放ち続けている。まちの中に残っている戦争の爪痕は会場の一部となり、キュレーターやアーティストはまちの歴史や文脈に則ってドクメンタを創り上げる。

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2つ目に、まちにでれば、そこが会場であること。ドクメンタの会場は、カッセルのまちの主要部全てだ。メイン会場は、フリデリチアヌム美術館だが、自然史科学館、宮殿、通信博物館、ノイエギャラリー、グリム兄弟博物館などミュージアムはもちろん、中央駅や市庁舎、ホールといった公共施設。さらに、ショッピングモールや映画館、旧病院や倉庫など、極めつけは、125㌶のカールスアウエ公園。作品同士が会場別に遠隔でつながっていたり、常設展とのコラボレーションをみせていたり、作家がまちの構造を丹念に追った展開も汲み取れる。まちに繰り出せば、どんなアートに出くわすか、そしてそれを、誰と共有し、何と解釈するのか。まるで謎解きのミステリー、比類なき冒険心がくすぐられる。

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3つ目に、まちの市民の暮らしが見えること。まちの主要部を会場としているため、そこには当然そこで暮らしている人たちがいる。例えば、公園。多くはフリーの空間であり、作品の横を犬の散歩をしたり、芝生にくつろいだり、市民にとっての憩いの場所であることには変わりがない。また、市内の飲食店に入れば、自然に「ドクメンタにようこそ」と店員に声をかけられ、今年の楽しみ方のアドバイスくれる。隣の席のお客も一緒になって、会話に入る。ドクメンタには市民から総勢200名強のボランティアがスタッフとなって入り、受付やガイドツアーを会期中毎日行っている。50年にわたって13回開催してきた実績に裏打ちされる市民への浸透度は、当然半端ない。

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ドクメンタのために、世界中から様々な人が訪れるカッセル。日本では、現代アートといえば、観賞者を選んでしまわれがちだが、ドクメンタのこのバラエティはどうだろう。それだけドクメンタが、ヨーロッパやドイツの人々にとって、待ちに待ったエンタテイメントなのかもしれない。世界各国の来訪者をどっしり構えて受け入れるカッセルのまちは、悲惨な戦争を乗り越えて、多様性を受け入れる寛容な心が育ってきたまちの成熟と受けとめられないか。ドクメンタには、「時代を記録する」という意味も込められる。ドクメンタの先鋭のアートが発するメッセージは世界の今を伝える。そのドクメンタの開催の記録を記憶し続けるのは、カッセルのまちと来訪者だ。日本の芸術祭がこれからどのような道をたどるかは、そのまちで暮らす人々の度量にかかっている気がする。

佐竹和歌子

高知市内に流れる川沿いに突如現れる、古い藁倉庫群。高知の歴史を感じさせる一角です。そしてこの一角に新しく藁工ミュージアムが昨年誕生しました。近くまで行ってみるととても明るくリノベーションが施されていて、ひとつひとつの倉庫に新しい活動が生まれています。ここはミュージアムだけではなく、バル、ショップ、ギャラリー、美容院、アーティストが集まる場、などなど複合アートゾーンになっているのです。
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3月は、「トマトアートフェスタ」特集。トマトをテーマにしたはがき作品を全国公募し、集まった作品を展示しています。面白いのは、展示だけではありません。ミュージアムの隣にある土佐バルと連携し、そしてその隣の蔵を使って、トマトを味わい愉しむワークショップを開催していました。講師は「きんこん土佐日記」で大人気の高知のマンガ家村岡マサヒロさん。

参加者たちはまずは土佐バルに行き、高知のトマト料理を味わいます。
トマトワークショップ1
美味しい食事ではじめて会う参加者同士もうちとけあい、(私も席で一緒になった地元のおふたりといきなり仲良くなってしまいました)、トマトが実は高知の名産であることを知ります。そして、それぞれの印象を一枚の絵に表現していきます。
トマトワークショップ2
アートイベントが好き、村岡さんのファン、近所だから、おいしいものが食べられるから、いろんな理由でふらっと来た参加者は、トマトを五感で愉しみ、気づけば「高知の名産トマト」について詳しくなっていっていきます。

藁工ミュージアムのしかけはそういうところに面白さがあります。学芸員の方に話を聞くと、いかにふらっと入ってきてもらってアートを体験してもらえるか、そのきっかけづくりにとても工夫をされていました。この藁工ミュージアムは、アールブリュット(専門の美術教育を受けていない人が自発的に生みだした、既存の芸術技法や方法論にとらわれない芸術)を主軸とした美術館としてオープンしています。聞けば館長という存在もいない、そしてとても自然に障害のある方が受付や案内で働いてらっしゃり、まるで仲の良いご近所づきあいかのように、各蔵同士が一緒にイベントを起こしたり、活動を外に拡げています。

高知の歴史を象徴するこの藁倉庫から、アートが湧きでて人を呼び込み、そこで生まれる様々な活動がまちにこぼれていました。高知の歴史を感じながら、新たに生まれていく高知の文化を感じさせる場所です。
藁工ミュージアム http://warakoh.com/museum

田中摂

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